2017年6月14日水曜日

二軒小屋・東俣作業道



⇒前回の続き

落石が目立つ渓流沿いと、穏やかな新緑の森の間を行ったり来たりしながら、林道は燕沢・車屋沢・千枚沢を続けて渡ります。
そろそろ十一時前。出発から四時間を過ぎ、脹脛に疲れを覚えるようになりました。GPSのトリップは30キロに迫り、終点を期待する心境になっていますが・・・
なんとなく、周りの森に針葉樹が目立つようになった気がします。標高は1300mほど。高原と呼ぶには低い気がしますが、雰囲気は一昨年訪れた上高地に似たものを感じます。枝の張ったマツの下に、苔生した岩が広がる森。小鳥のさえずりと、風が葉を鳴らす音だけに耳を傾けながら、径を静かに漕ぎ進むと、見覚えのある分岐が現れました。出発前に調べた情報によれば、右の道は二軒小屋ロッジに続いているはず。東俣林道の終点を確認したいので、取り合えず直進。森を抜けると、ひと際高い水音が耳に届き、やがて腹の底を震わせるような大音響となりました。スゴイ!スゴイ!!




二軒小屋の滝


水量豊富な滝が白い弧を描き、迸るように落ちています。滝壺の周り広がる青い、青い淵。落差は10mにやや欠ける位でしょうか?滝口は自然の岩を人の手で穿ったような、人工物らしい雰囲気も感じますが・・・

あっけにとられ、滝(らしきもの)の脇に佇んでいると、二人組の男性に声を掛けられました。見覚えのあるマークがジムニーのドアに描かれているので、電力会社の方かな?例によって、どこから来たの~?どこへ行くの~?のやり取りの後、「秋の紅葉はもっと素晴らしいから、是非また来てね。」と仰って頂いたので、燃え立つような景色を心に描きながら、先へと進むことにします。
道の先?・・・小さな橋の袂が柵で塞がれているけれど・・・
・・・間ノ岳や農鳥岳への登山口は大井川東俣を遡った、まだまだずっと先にある筈。なので、「歩けば良い」と解釈して、柵の横をすり抜けました・・・





沢の底から上る道は緑のカーテン。若葉の間から差す陽を浴びて歩くのは、何とも言えず、気持ちがいいです。こんな山奥に家!?・・・和風の切妻屋根が見えたのでドキリとしますが、表札を読むと、どうやらダムか発電所の施設の様子。法面が苔生した切り通しの先に現れたのは、弧を描いて流れる、静かな淵。周りの森の色を映すエメラルド色の水は、赤石ダム辺りの白濁した流れとは対照的に、透明度も高く、川底の石がハッキリと見えます。音が無い川は流れが深い。水深は5m近くあるようで、そのあまりの美しさに見惚れていると、引き込まれてしまいそうで、怖くなります。



田代調整池


ここがダム湖らしい事が段々と分かってきましたが、それでは堤はどこにあるのでしょうか?神秘的な色を湛える水は東に流れていて、先ほどの「滝」の方向とは正反対。すると、再び水音が高くなり、分流点らしい場所に出ました。南に向かう流れの先は、先ほどの「滝」になって、大井川の本流に落ちるようです。赤く錆びた管理通路らしい施設が、道の左から滝の上まで延びているので、下から見上げると自然の岩と見えたものは、やはりダムの堤なのでしょう。(←実は「洪水吐き」という施設だそうです)
作業道は地図に無いトンネルに突き当たりました。面取りされていない馬蹄型というか、側壁面と天井面の間に角がある、ひどく小さな坑口の上に、「二軒小屋トンネル」の文字。銘板には「1986年12月竣工・中部電力株式会社」とあります。脇の電柱には「沼平ゲート起点  28キロ」と記されています。GPSのトリップから逆算すると、私は2キロばかり余計にジグザグしてしまったらしい・・・(^ ^;)




北側は東俣を渡る橋。錆止めの鈍い赤色が、武骨で不気味な印象を与えます。大井川の西俣・東俣の出合に当る場所ですが、それぞれを遡る道があって、どちらを行こうかと、分岐でしばし、迷いのひと時。

東俣にしろ西俣にしろ、この先は登山関係のサイトにしか、情報が無いわけですが・・・

東俣は終点まで2キロの筈。短いですが、こちらの方がしっかりした作業道との情報も。
西俣は上流1キロに発電所の記号があるので、そこまで作業道が延びているのは確実。問題はその先で、登山サイトを覗くと、元は林道として整備されたと思しい道が、蛇抜沢付近まで延びていると推定される写真が投稿されていたりしますが、いくつも崩落があるとのことで、そろそろ正午に差し掛かろうという時間に、足を踏み入れるに相応しい場所とは申せません。。。
地形図を見ると橋があったり、トンネルの存在を疑わせる線形があったりで、興味深い道ですが、登山道としてもあまり使われているようでもありませんし、なにより自転車を連れている弱味があります。
実は、東俣林道を走っている途中、特大のホイールローダーに二回、追い越されたのです。出掛ける前にネットで見つけた情報によれば、西俣の奥にリニア関連の施設(トンネルの資材置き場?)があるらしいとの記述もあり、作業している現場に鉢合わせしてしまうことを、(この時点では)恐れたわけです。そんな次第で西俣については涙を呑んで、東俣の作業道の終点を確認すべく、歩みを進めます。





暫くは、東俣林道とあまり変わりがない砂利道。調子よく下ると、河床スレスレに走る道になりました。
水は益々、透明さを増した印象です。道端にはケルンが姿を現し、いよいよ山道が迫っていることを感じます。
左に蝙蝠岳への登山道が分けると、行く手に作業小屋が見えました。徐々に草が深くなってきましたが、路面には新しい轍が残っているし、年季の入った石積みの路肩は、東俣林道の木賊沢辺りよりも、しっかりしているように見えます。
作業小屋はモノラックの車庫のようでした。レールの先を目で追うと、谷から西側に、物凄い角度で延びています。モノラックにしては特大の、三両編成の車両も見えますが・・・このサイズはモノラックではなくて、モノレールなのかしら???そして、この少し広くなった場所が、作業道の終点のようでした。突き当たりの斜面には、わずかな踏み跡が続いています。畑薙ダムから33キロ・西俣との分岐からは2キロの地点。時刻は十一時半なので、自転車を漕ぎ出してから五時間。帰路は下りなので、時間の方は若干短く済む筈ですが、今夜の宿泊場所である寸又峡温泉まで移動する時間も考慮すると、引き返す頃合いでしょう。





・・・かように現地では判断した訳ですが、帰宅後掛川市の公式サイト内のこちらのページ(『大井川「最初の一滴」探訪妄想の記』)を見つけてしまい、エラく落ち込んでしまいました。。。
終点の斜面と見えた場所はただの押し出しだったらしく、東俣の作業道は私が終点と判断した場所のずっと、ずっと、ず~~~と奥の、押出沢手前の堰堤まで延びているらしい。途中橋が三箇所(!)もあり、まだ6キロ近くの道程を残して引き返してしまったなんて・・・(T T)

なお、こちらのサイトを見ると、やはり西俣では重機を入れて、大掛かりな何かを行っていたらしいこと、東俣の私が終点と判断した場所では、リニアのトンネルのボーリング調査が行われたことが分かります。

ぶっちゃけ、山懐の深さに恐ろしさを感じていたので、引き返すと決めたらホッとしましたし、足取りも軽く二軒小屋まで戻ったのでした。柵の脇を通って林道へ戻ると、ビュンビュン飛ばして往路に通り過ぎた分岐まで戻り、坂を上ります・・・アレ?なんか、重機や資材が並ぶ、工事事務所みたいなところへ出ちゃった??・・・慌てて引き返します。と、林道終点の柵の横に「二軒小屋ロッジ⇒」と道標があるではないですか。。。自転車を押して径を上ると、まさしく山荘の大屋根を目の端で捉えましたが、それ以前に、目の前に現れたものにビックリ(*_*)

  これはダムの堤・・・だよね。




林道のすぐ脇にあるのに、不思議と林道からは見えなかった重力式のダム。古色蒼然としたコンクリートの堤は半分以上が苔で覆われています。帰宅後調べると「田代ダム」といい、大井川水系で唯一、東京電力が管理しているダムとのこと。昭和三年(1928年)完成とのことなので、御年八十九歳。ダム脇の部分に洪水吐きを備える形式なのだそうで、迫力ある「滝」と見えた部分がそれに当たるのだそう。先ほどの音のない深い流れは、堤体の取水口から南アルプスを貫くトンネルへと導かれ、伝付峠の向こう側・早川町の保利沢川ダムで発電に利用されるとのこと。つまり大井川から富士川へ導水して発電しているというわけで、遥か昔から人知れず働いてきた、壮大なインフラを作り上げた先人の知恵と計り知れない努力とに、気付かされることとなったのでした。

さて、二軒小屋ロッジの前に出ました。
管理人と思しい男性が作業されていたので挨拶すると、お話を伺うことが出来ましたm(_ _)m 林業が盛んだった頃は、二軒小屋の周辺だけで数百人の人が住んでいたとのこと。それは皆、山梨県の早川の方から働きに来た人で、伝付峠や所の沢越といった、二千メートル近い峠を越えて山仕事に携わっておられたそうです。
林道が開通したのは昭和四十八年(1973年)で、それまでは急峻な峡谷に阻まれ、大井川下流から人が通うことも稀だったらしい。大井川の上流部は、製紙会社である東海パルプが所有し、開発してきた場所なのだそうで、林業が衰退した現在は、同社の子会社である東海フォレストが、南アルプス観光を経営の軸として、一帯を管理しているとのことでした。二軒小屋・椹島の両ロッジ共に、同社が運営している由。そういえば何かの雑誌で、大倉喜八郎男爵(東海パルプの前身・東海紙料が属した大倉財閥の設立者)が自身が所有する山に上ろうと思い立ち、米寿の祝いで赤石岳の山頂に立った・・・という記事を読んだ記憶があります。




リニアのトンネルのことも訊ねると、当初の予定では二年前に工事が始まっていた筈だが、知る限り、今のところ何の動きも無い・・・とのこと。二年前には一度、西俣に工事資材を搬入したのだけれど、いつの間にか引き上げてしまったようだとの話。
本当に綺麗な場所なのでその旨を述べると、木の種類を丁寧に教えて下さいましたm(_ _)m
一昔前は自転車を担いで伝付峠を越えるサイクリストがよくロッジを訪れたそうで、辞去する際には「今度来る時は、泊まって山登りすると、全然違った景色を見ることが出来るヨ!」と言って戴きました。

正午を回ってしまったので、ビュンビュン下ります。
デコボコの道は転がり抵抗が大きい筈ですが、ペダルに軽く力を込めるだけで意外とスピードが乗ってしまいます。崩落が大きめの石を運んでいる木賊沢周辺は慎重に。往路はトルクを掛けると滑ってしまう、勾配と砂利の大きさが問題でしたが、帰路は水溜まりの撥ねが疲労を大きくします。泥だらけにはなりたくないし、かといってスピードは殺したくないし・・・





上る時は一時間半かかった道程を三十分で走り抜け、十二時半に滝見橋。ココから牛首峠まではしばらく上りです。
「滝」というにはあまりに細い流れが、千枚岳へ続く登山道(単管で組んだ、見るからに心細い桟橋・・・)を濡らす様子を眺めていると、突然爆弾が破裂したような轟音が轟いて、思わず身を竦めました。
鼓動が激しくなるのを感じつつ周囲を見回すと、登山道の桟橋のすぐ脇に、先ほどまではそこに無かった筈の倒木が、岩に引っ掛かっているのが確認できました。
こりゃ~ホントに、危険と紙一重の場所なんだネ・・・(゚Д゚;)

牛首峠まで、短いけれど試練の道。午後に入って勢いを強めた陽に照らされて、ドッとばかり、汗が吹き出します。汗を吸い濡れたバックパックの重さを背中に感じながら、足掻くこと十分で椹島ロッジ分岐・・・もう、いいや。寄らずに帰ろう・・・更に十分ペダルをブン回すと、牛首峠に着きました。

青い赤石岳を眺めながら、コンビニおむすびを頬張ります。





しつこいアブに追い回されながらおむすびを胃におさめ、チャリ漕ぎ再開。

往路手こずった坂も下れば流石に速くて峠から二十分で赤石ダムの堤体に到着。午後の陽を浴びても、絵具みたいな、ペンキみたいな湖面の色合いは相変わらずです。深い砂利にハンドルを取られないように、タイヤに神経を集中して、ダムの堤高分をソロソロ下ります。後輪をロックさせないよう、ブレーキは慎重に。

徐々に河谷が深くなり、水音が遠くなりました。自転車を停めてのぞき込めば、目も眩むような高い場所を林道は走っています。自然、ハンドルを持つ手に力が入ります。標高千メートル付近で大井川本流に沿うようになれば、勾配が緩んでスピードも落ち、注意すべきは水溜まりだけになります。

これが意外に、難敵なのですが・・・





そろそろ手首にも疲れを感じ始めました。もう一度、中の宿吊橋に挑戦!

    ・・・(((>Д<;)))コワー・・・

畑薙橋に差し掛かろうというところで、遠くの滝の音が耳に届きました。対岸の山肌に崩落した地形を認めることが出来るのですが、遥か頭上に巨大な滝が見えます。地図を確認すると、青薙山の南側・落差六百メートル(!)に及ぶ「赤崩」のド真ん中、標高1400mあたりでしょうか。カメラを最大までズームすると、白い土砂の間に、二段になって落ちる滝を捉えることが出来ました。再びペダルを回すと、いよいよ畑薙ダムの湖岸。往路では意識しなかった僅かなアップダウンに消耗しながら、這うような速度で湖の畔を南に下って、十四時半過ぎにダムの駐車場に戻ることができました。





長年の憧れだった東俣林道。67キロに及ぶフル・ダートはさすがにボリュームたっぷりで、大満足です。全体を通しての印象は素晴らしいものでしたが、さて、この道の魅力を言葉にするのが、私の乏しい語彙では、とても、とても、難しい。。。南アルプスの青い峰々を望むことができる箇所は、想像したよりも少なかったですが、源流部の川の美しさと、野生動物との遭遇が多かった点については感動しましたし、なにより、山の奥深さを感じました。荒れた個所もありますが、飛ばさなければ走り易い道だと思います。

今夜は寸又峡に泊まるので、余りのんびりもしていられず、そそくさと自転車を車に積んで、畑薙湖をあとにします。計画を立てた時、地図上では僅かな距離と思えた道程は、実は48キロもあって、チェックインの時間を気にしながらの夕暮れのドライブには、自転車を漕ぐよりも疲れを覚えました。

畑薙ダム~井川ダムの道は落石だらけだし・・・
寸又峡への峠越えは離合の難しい隘路のくせに、対向車が多くて・・・(日帰りの人達が静岡方面へ帰る時間帯だった)

でも、温泉は流石にいいお湯で、大満足
・・・そして翌日は、山を登る林道へGO!






こちらも宜しくお願いしますm(_ _)m
甘利山・鳥居峠・モジリ峠・見返り峠←新タブで2014年11月16日付記事が開きます。
大井川源流・東俣林道←新タブで2017年6月10日付記事が開きます。
勘行峰林道・百畳峠←新タブで2017年6月28日付記事が開きます。




 

2 件のコメント:

Hiro Abe さんのコメント...

す、すごい!
圧巻です。そして山並みが綺麗!水も綺麗。これは行ってみたくなりますね。
井川ダム周辺は私も以前コース検討したことがありますが何故か南方面には足が向かず計画倒れになってました。
見直す機会を与えてくださってありがとうございます。
写真、動画、楽しく拝見させていただきました。そして文章も感動、迫力伝わってきますよ。
私も写真でごまかさないようにせねば…
それではまた!失礼しました。
こころの気圧配置図管理人でした。

ボラザぢぃ さんのコメント...

Hiro Abeさま

要点曖昧・語彙は貧弱で、体言止めも多いし、誤字・脱字だらけお恥ずかしい限りです。(>_<;)
『こころの気圧配置図』の文章は、要点を簡潔に纏められているのに、その場の空気や雰囲気はとてもよく伝わって来るので、毎回お手本にさせて頂いております。
ですが・・・
上手く学習できず、私の拙いブログの方は毎度、ダラダラ長くなってしまいます・・・(>_<;)

大井川源流はスケールが大き過ぎて、私の写真や文章では表現できない部分が多すぎるように感じています。
Hiroさんの言葉を借りるなら、この辺りはやはり「上ってなんぼ」で、登山をしなければ
本当の価値の何分の一も味わえないエリアなのだと思いました。

せめて、井川雨畑が再び通れるようになれば、自転車乗りに対してもより門戸を開いて、
魅力ある景色を見せてくれるようになるのでは・・・と、感じずにはいられません。

南アルプスの雄大さを、Hiro Abeさんの写真と文章で、読んで感じてみたいです!m(_ _)m
コメントありがとうございます!m(_ _)m